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真性・社畜物語 「組織崩壊編」
⑳「スレンダー堕ちる」

あまりに突然の帰還であった…。

「あ、あ…おかえり〜」

「思ったより早かったねー、心配したよー!」

「スマホノコトスミマセンデシタ」

主任の復帰に対して心のこもっていないお祝いメッセージが次々と発せられる。

「いや〜ぎっくり腰にプラスして昔にやったヘルニアも再発しちゃって…。正直まだ立つのがやっとだけど、家でぼーっとしてても暇だから来ちゃった!」

スレンダーのコンディションはまだ万全ではないみたいだ…。しかし何もすることがないから出勤するというのは…。彼女も大分社畜である。
腰のヘルニアは相当辛いだろう…。もし仮に今、スレンダーと体を重ねたら大絶叫プレイになること間違いなし。怖いから出来ないけど…。

「今までと同じ業務は出来ないけど、書類仕事とかなら余裕でできるから皆言ってね。一応、車椅子は自分で漕げるからお構いなく…。ほら!」

スレンダーが医務室の中を車椅子でスイスーイと漕ぎ回る。かなりシュールだ。それを冷たい目で見守っている看護師達…。
(こんなのがウチらの上司なのかよ…)という声が聞こえてきそうである。

そんなわけで主任が復帰したことにより状況は一変。せーり率いる、現場の悲惨さを知ったスレンダーは看護師たちを現場職員のヘルプとして派遣することを決定。医務室の雰囲気は天国から一気に地獄へと変わった。しかし現場からすれば有り難い話であり、せーりを愛する社畜からもしてもとてもナイスな判断であった。

「やっぱり私がいないと皆動かないかぁ…」

医務室で1人、デスクに向かいながら独り言を呟くスレンダー。社畜もこっそりいるぞい…。
思えばスレンダーはいつでも現場のことを考え、時には自ら現場の皆とコミュニケーションをとっていた。愛弟子であるバリカンのこともなんだかんだ気になるだろうし、他の職員とも一人一人コンタクトをとっているイメージがある。ひょっとすると、いやしなくてもこの社畜病院はスレンダーがいるからこそギリギリ機能している。この事実に気づいている職員は一体どれくらいいるのだろう。スレンダーの存在はかなり重要である。

「……っと。そろそろお昼前だし、よっと」

勝手に感心していると、社畜が隠れている医務室の出口にスレンダーが向かってくる気配がした。いかん、この場を離れなければ…!そっと退室。書き物しかできないその身体でどこに行こうというのだね…。

社畜はスレンダーが上手に運転する車椅子の後をこっそり後ろから追う…。

「……ここ綺麗なのかな…」

たどり着いた先は…まさかの御手洗…。
そうか…! いつも用を足している事務所の御手洗では車椅子のまま入れるスペースがない…!しかし現場フロアの御手洗はそんなことお構い無しの完全バリアフリー化しているスペシャルトイレ!手負いのスレンダーにはもってこいである。

まさかの出来事である…。社畜がいつも交渉している御手洗に自ら進んで入ろうとするなんて…。
1番ハードルが高い、スレンダーが……。
こんな簡単に…。

「あ、意外に整理されてる。うん、まぁいいか」

入っていく……! しかし、一応許可を取らねば!

あ、あの……!!

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