6


早稲田の戸山キャンパスを歩く学生たちは、どこか皆、自分を持て余しているように見える。
斜に構えたサブカルチャーの気配と、無数の活字が放つ古いインクの匂い。そんな少し埃っぽい日常の中で、彼女——堀綾子だけは、まるで日陰にひっそりと咲く白い花のように、透き通った輪郭を持っていた。

「あ……っ、ご、ごめんなさい……!」

初夏の文学講義。隣の席に座ろうとした彼女が、慌ててカバンから資料をぶちまけたのがすべての始まりだった。
床に散らばったルーズリーフ。俺が何気なく拾い上げた一枚には、授業のメモではなく、驚くほど繊細で、どこかひたむきな言葉で綴られた官能的な詩の走り書きがあった。
恥ずかしさで顔を真っ赤にして、泣き出しそうに俯く彼女の小さな頭。身長148センチの華奢な肩が、かすかに震えている。

「すごく、綺麗な言葉だね。君が書いたの?」

俺がそう言った時の、彼女の信じられないものを見るような、それでいてすがるような瞳を、今でもはっきりと覚えている。
あの日から、俺の目はどうしようもなく彼女を追うようになった。

高田馬場の駅前で、彼女が友人たちと一緒にいるのをよく見かけた。
誰もが振り返るような洗練された美しさを持つ山美月や、少し勝気で目を惹く瀬戸琴葉。華やかなその二人の隣で、綾子はいつも控えめに、けれど本当に楽しそうに笑っていた。
周りの男たちは競って山さんや瀬戸さんに声をかけていたけれど、俺の目には、少しどんくさくて、真面目で、誰よりも純粋に笑う綾子の姿しか映っていなかった。

秋の終わり、冷たい風が吹き始めた大隈庭園で。
「好きです。俺と、付き合ってくれないか」
そう伝えた時、綾子は大きな瞳からボロボロと涙をこぼして、何度も何度も頷いてくれた。その時抱きしめた彼女の体は、折れてしまいそうなほど細くて、俺はこの小さな女の子を絶対に大切にしようと心に誓った。

——けれど。
付き合って半年が経つというのに、俺たちはまだ、最後の一線を越えられていない。

「ん……ぁ……っ、宗介……」

0 0

人気の記事