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ラッパー制裁編⑮

「マッシュさーん? マッシュさ……」
せーりの声が途切れる。口を塞がれたのだ。

「だ、だまれって! 私は別に皆と同じで『ラッパーが怪しい』って言っただけ! 謝るよ!
ラッパー、ごめん! ほら! もういいでしょ?」
マッシュが慌てて、テキトーな謝罪をする。

「フゴフゴ…」せーりが何か言っている。
どうしても伝えたいことがあるようだ…。

「マッシュ、離してあげて」
ラッパーが話すと同時に、
武道がマッシュのその手を払いのける。
さすがのコンビネーションだ。

「…ぷはぁ。マッシュさん言ってましたよね?
『ラッパーは貧乏だから人に集ってる』
『自分をよく見せたいから、自分よりブサイクなやつと一緒につるんでる』
『そもそもあんま好きじゃない』とか…」

とんでもないことをぶっ込んでくる「せーり」
これだから女同士の友情はよく分からない。

「…サイテー」 「よくそんなこと言えるよな…」
外野がザワつく。

「ちがっ…、っおい! せーり! 嘘つくんじゃ…」
マッシュが挙動不審になる。恐らく事実だ。

「『犯人はラッパー』、
そう書いたのもマッシュさんでしょ?」
とどめの一撃。

「はぁ!? それだけは違う!」
そして墓穴を掘るマッシュ…

気がつけばバリカン達が退場している。
矛先が変わったのでチャンスと思ったのか…
もしくは面倒事は避けたいといった感じか…
その後も「せーり」の暴露は続く。
状況が苦しくなったマッシュはしばらくしてその場を逃げるように去った。

「ガチでやばいやつじゃん」
「もう職場来れないでしょあんなの言われたら」
「あんなの仲間じゃないよね」

つい先日まで別のターゲットを叩いていた連中は即座に目標を変更した。
この職場の悪いところが滲み出ている。

「ま、これからもよろしく〜。えへへ〜」
ラッパーの一言で長い朝礼が終了。

今回の事件は意外にも「せーり」の逆襲で幕を閉めた。長年マッシュから受けてきた酷い扱いがやっと報われたのである。
言うまでもなくその後マッシュは退職。
せーりのトラウマは完全に消滅した。
おめでとう「せーり」 でも社畜は知っている。
『犯人はラッパー』と書いたのキミだろ…。

▶︎次でおしまい

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