官能楽しめる人
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キャンパスへと続く緩やかなスロープを吹き抜ける風には、いつも少しだけ微睡むような甘い匂いが混じっている。
早稲田大学文学部。
古いインクとペーパーバックの香りが漂う戸山キャンパスが、今の私の世界のすべてだ。1990年の春に生まれた私が、18回目の季節を迎えてやっと手に入れた「大学生」という真新しいチケット。
身長148センチ。平均より少しだけ低い私の視界から見上げる東京の空は、いつだって意地悪なほど眩しい。
お気に入りの白いブラウスに、少し背伸びをして買った細身のローファー。ショーウィンドウにふと映り込む自分の姿は、どこにでもいる、純粋で、真面目で、少しだけ不器用な——ただの平凡な女の子に見えるはずだ。
「綾子ってさ、本当にいつも裏表がないっていうか、ピュアだよね」
行きつけのカフェで、親友の美月はアイスティーのグラスを傾けながら、ふわりと笑う。
資産家の令嬢で、息を呑むほど透き通った美しさを持つ美月。
そしてその隣で、「あんたは少し隙がありすぎるのよ」と、ツンとした態度でストローを噛む琴葉。
光を纏ったように華やかな二人と並んで歩く高田馬場の街並みは、まるで気の利いたフランス映画のワンシーンのように鮮やかで、どこまでも軽やかだった。
優しい彼氏の宗介、自慢の友人たち、そして穏やかな日常。
私の日常という名のキャンバスは、誰が見ても完璧なパステルカラーで彩られている。周りの誰もが、私が何の憂いもなく青春を謳歌していると信じて疑わないだろう。
——けれど。
どんなに仕立ての良いスカートを穿いても。
どんなに流行りの淡いリップを唇に引いても。
私の皮膚のすぐ下には、誰にも見せられない、深く、暗く、重たい『秘密の森』が鬱蒼と広がっている。
日差しが強ければ強いほど、足元に落ちる影はどこまでも濃く、黒くなる。
完璧な日常の裏側で、私だけが知っている、私自身のひどく醜い部分。
その深い劣等感を彼に——愛する宗介に知られる日が来ることを想像するだけで、私は淹れたてのカフェオレすら、ふいに砂を噛むような味に変わってしまうのだ。
これは、誰よりも普通で、誰よりも臆病な私が、自分の内側に隠し持った決して綺麗とは言えない「秘密」と向き合うまでの、ひそやかな物語
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誰にだって、厳重に鍵をかけて隠しておきたい「夜の顔」がある。
高田馬場のお洒落なカフェで、新作のフラペチーノを前に恋バナで盛り上がっている時、美月や琴葉はきっと思いもしないだろう。
このグループの中で一番奥手で、いかにも純情ぶっているこの私が、実は誰よりも「そういうこと」に溺れ、熱に浮かされているだなんて。
そう、私は自分の体が、恐ろしいほど過敏であることを知っている。
ふとした瞬間に宗介と手が触れただけで、あるいは深夜に一人で少しだけ大胆な映画のシーンを見ただけで、私の秘密の場所は嘘みたいに熱を持ち、あっという間に下着を甘い蜜で濡らしてしまうのだ。
一人の夜、ベッドの暗がりに潜り込むと、私はもう一人の私になる。
シーツの波間で、誰にも見せられない深い茂みへとそっと指を這わせる。そこには、私が忌み嫌い、絶望的なほどのコンプレックスを抱き続けている「不器用なほどに大きくて、色濃く育ってしまった皺だらけの花びら」が隠れている。
けれど、その醜い花は、皮肉なことに自分自身の指が少し触れただけで、狂おしいほどの甘い痺れを私にもたらすのだ。
吐息をシーツに押し殺し、熱を帯びた入り口を何度も掻き回す。波のうねりが頂点へと駆け上がり、頭の中が真っ白に弾けるその瞬間——。
私はきまって、抗いようのない衝動とともに、熱い飛沫をシーツに散らしてしまう。それはただの透明な蜜ではなく、ほんの少しだけアンモニアのツンとした香りを帯びた、黄金色が混じる潮。
絶頂のたびに自分自身を汚してしまう、そのどうしようもない体質もまた、私を深く縛り付ける呪いの一つだった。
どうしてこんなにも、自分の体を愛せないのだろう。
それは、中学生の頃の苦い記憶に繋がっている。
体育の着替えの時だった。無邪気な同級生の女の子が、私の下着の隙間から覗く濃い影を見て、無遠慮に笑ったのだ。
「綾子ちゃんって、もうあんなに毛が生えてるの? なんか、男の人の金玉みたいなのハミ出てない?」
悪意のない、だからこそ鋭利な刃物のようなその言葉は、私の心を深く、深くえぐった。以来、私は自分の体を「普通じゃない」「醜いもの」として厳重に封印してきた。
恋をしてみたいと夢見ても、いつかこの体を見られたら絶対に嫌われる。そうやって、ずっと傷つくことから逃げていた。
そんな私に、初めて「ここにいてもいいんだ」と思わせてくれたのが、美月と琴葉だった。
出会いは大学の入学式の日。人混みに酔い、配られたばかりの大量のシラバスを盛大に床にぶちまけてパニックになっていた私。
「大丈夫? 手伝うよ。私、山美月」
ふわりと上品な香水の匂いをさせて、透き通るような笑顔で手を差し伸べてくれたのが美月だった。
そしてその横で、「ちょっと、人が通れないじゃない。貸しなさいよ」と、呆れたようにツンとした口調で、不器用な私から素早く資料を奪い取ってまとめてくれたのが琴葉だった。
まるでタイプの違う二人。けれど、彼女たちは私の「普通で、少しどんくさいところ」を面白がり、大切にしてくれた。
美月の真っ直ぐな優しさと、琴葉の不器用な思いやりに触れるたび、私は少しだけ、普通の女の子になれたような気がしたのだ。
そして、宗介。
彼との出会いは、初夏の文学の講義だった。私がうっかり落としてしまったノートの切れ端——そこには、恥ずかしいくらい感傷的な詩の走り書きがあった——を、彼が拾い上げたのがきっかけ。
「すごく、綺麗な言葉だね。君が書いたの?」
からかうでもなく、真っ直ぐにそう言って笑った彼の瞳には、少しの曇りもなかった。
そこからは、まるで緩やかな坂道を転がるように惹かれ合った。
一緒に古本屋を巡り、映画を見て、喫茶店で何時間も言葉を交わすたびに、彼の実直で誠実な優しさに心から惹かれていった。
「綾子と一緒にいると、すごくホッとするんだ」
秋の終わりの大隈庭園で、そう言って彼が手を握り、告白してくれた時、私は嬉しさのあまり泣き出してしまった。
今、私たちは付き合って半年になる。
キスをして、きつく抱きしめられるたび、私の下着はどうしようもないほどに濡れそぼっているというのに、私たちはまだその先の一線を越えていない。
彼は私の緊張を感じ取ってくれているのか、決して急ごうとはせず、私のペースを大切に守ってくれている。
けれど、いつかは必ず訪れるはずの「その夜」を想うと、私の心は期待と恐怖で真っ二つに引き裂かれそうになるのだ。
この鬱蒼とした深い茂みを、大きすぎるいびつな花びらを。
そして、絶頂の波とともに溢れ出してしまう、あの熱くて汚らわしい飛沫を。
彼は、宗介は、本当に受け入れてくれるのだろうか。
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真夜中、一人きりのワンルーム。
静まり返った部屋に、時計の針が進む音と、ひどく卑猥な水音だけが響いている。
「はぁ……っ、ん……っ、あ……」
ベッドの上にバスタオルを敷き、私は乱れた息を吐きながら、自分自身の最も醜く、そして最も熱を帯びた場所へと深く指を沈めていた。
私は、誰かが思い描くような無垢な処女なんかじゃない。
男性の肌の匂いも、体を貫かれる重たい感覚も、とうの昔に知っている。けれど、その記憶は決して甘いものではなく、私の心を永遠に縛り付ける冷たい呪いだ。
高校時代の元カレ。初めて彼に体を許した夜、私の下着を脱がせた彼は、明らかに言葉を失っていた。
男の人より濃いのではないかというほど鬱蒼と生い茂った太い毛並み。そして、その奥で無防備に垂れ下がる、ひどく大きくて黒ずんだいびつな花びら。
『……なんか、すげぇな。思ったより……その……』
引きつった彼の顔。気まずそうな視線。行為そのものも、私という人間を乱暴に消費するような、ひどく惨めなものだった。あの夜から、私の体は「愛されるべきもの」から「隠すべき汚らわしいもの」へと変わってしまったのだ。
なのに。
そんな深いトラウマを抱えているくせに、私の体は恐ろしいほどに快楽に弱く、どうしようもないほど淫らだった。
「ん……っ、あ……じゅくっ……」
自嘲しながら指を動かす。ごわごわとした硬い毛並みを掻き分けると、そこにはもう、どうしようもないほど溢れ出した蜜が粘り気を持って絡みついていた。
不恰好に肥大したヒダを指の腹でこじ開け、その先端に隠れた最も敏感な蕾の芯を、チリチリと弾くように擦り上げる。たったそれだけで、背筋が反り返るほどの電流が走る。
「あっ……ん、ふ……っ」
濡れそぼった入り口に、中指と薬指の二本をゆっくりと沈め、奥へ奥へと突き入れていく。
処女ではないこの体は、異物が侵入する感覚を卑しくも記憶していて、私の指をきつく締め付けながら、もっと奥を抉ってほしいと脈打ってねだる。
チュクッ、グチュ、ジュルッ……。
自分の手で掻き回しているというのに、熱い粘膜が指に絡みつく感触に、頭の芯がトロトロに溶けていく。
そして、致命的な欠陥が私を襲う。
快感の波が限界を超えようとする時。クリトリスや、奥の柔らかい壁から放たれる凄まじい電気信号が、私の脳の言語野を完全に焼き切ってしまうのだ。
「好き」とか「気持ちいい」とか、そんな可愛らしい言葉を紡ぐ回路がショートして、ただひたすらに、交尾を求めるメスのような、低くて下品な言葉しか口から出せなくなる。
「あ……ヤッ……! ちょ、ヤバッ……!」
理性を手放した私の口から、普段の私——純粋で大人しい早大生としての堀綾子——からは絶対に想像もつかない、はしたないビッチのような声が漏れる。
「ィグッ……! あ、ヤベェ、これ……っ!」
蕾の芯を指の腹で激しくこすり上げ、同時に奥の壁をゴリゴリと抉るように突く。
脳髄が弾け飛ぶような鋭い快感が全身を貫く。視界が白く明滅し、つま先が痙攣したように丸まった。
「グッ……! ああっ、ィグッ、ヤベッ……イクッ!!」
完全に理性のネジが吹き飛んだ絶叫とともに、最高潮のオーガズムが私を呑み込んだ。
腰がビクンビクンと激しく跳ね上がり、奥底から堪えきれない衝動が押し寄せる。それと同時に、下腹部の奥の奥、膀胱のあたりから熱い塊が逆流し、コントロールを失った私の秘所から、勢いよく飛沫が噴き出した。
——ビュッ、ジュワーッ……。
シーツの上に敷いたバスタオルに、黄金色が混ざった大量の潮が染み込んでいく。部屋の空気に、女の甘い蜜の匂いと、ツンとしたアンモニアの匂いが混ざり合って漂った。
絶頂の余韻に体を痙攣させながら、私は汗ばんだ顔を両手で覆う。
「……はぁ……はぁ……私、最低だ……」
尿混じりの潮を吹き、ヤンキーかビッチのような下品な声を上げて一人で果てる女。
これが、宗介に見せられない、私のもう一つの「絶対の秘密」だった。
宗介の真っ直ぐで優しい瞳を思い出す。
彼に抱きしめられるたび、私の奥は疼き、今すぐにでも彼を受け入れたいと濡れそぼっている。でも、もし一線を越えてしまったら。
この醜い体を見られるだけじゃない。絶頂の瞬間に脳がショートして、『ヤベッ』『ィグッ』なんて下品な声を張り上げ、あまつさえ彼の目の前でおしっこ混じりの潮を吹いてベッドを汚してしまったら……。
彼は絶対に、私を軽蔑する。
純粋な綾子は嘘だったんだと、失望して去っていくに決まっている。
だから私は、宗介の優しい手から逃げるように踏みとどまり続ける。
この醜く淫らな体を、どうしようもなく深く愛してくれる人なんて、この世界のどこにもいるはずがないのだから。
♠
早稲田の戸山キャンパスを歩く学生たちは、どこか皆、自分を持て余しているように見える。
斜に構えたサブカルチャーの気配と、無数の活字が放つ古いインクの匂い。そんな少し埃っぽい日常の中で、彼女——堀綾子だけは、まるで日陰にひっそりと咲く白い花のように、透き通った輪郭を持っていた。
「あ……っ、ご、ごめんなさい……!」
初夏の文学講義。隣の席に座ろうとした彼女が、慌ててカバンから資料をぶちまけたのがすべての始まりだった。
床に散らばったルーズリーフ。俺が何気なく拾い上げた一枚には、授業のメモではなく、驚くほど繊細で、どこかひたむきな言葉で綴られた官能的な詩の走り書きがあった。
恥ずかしさで顔を真っ赤にして、泣き出しそうに俯く彼女の小さな頭。身長148センチの華奢な肩が、かすかに震えている。
「すごく、綺麗な言葉だね。君が書いたの?」
俺がそう言った時の、彼女の信じられないものを見るような、それでいてすがるような瞳を、今でもはっきりと覚えている。
あの日から、俺の目はどうしようもなく彼女を追うようになった。
高田馬場の駅前で、彼女が友人たちと一緒にいるのをよく見かけた。
誰もが振り返るような洗練された美しさを持つ山美月や、少し勝気で目を惹く瀬戸琴葉。華やかなその二人の隣で、綾子はいつも控えめに、けれど本当に楽しそうに笑っていた。
周りの男たちは競って山さんや瀬戸さんに声をかけていたけれど、俺の目には、少しどんくさくて、真面目で、誰よりも純粋に笑う綾子の姿しか映っていなかった。
秋の終わり、冷たい風が吹き始めた大隈庭園で。
「好きです。俺と、付き合ってくれないか」
そう伝えた時、綾子は大きな瞳からボロボロと涙をこぼして、何度も何度も頷いてくれた。その時抱きしめた彼女の体は、折れてしまいそうなほど細くて、俺はこの小さな女の子を絶対に大切にしようと心に誓った。
——けれど。
付き合って半年が経つというのに、俺たちはまだ、最後の一線を越えられていない。
「ん……ぁ……っ、宗介……」


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